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専業トレーダー DaTsU

相棒 劇場版



配給:2008東映

スタッフ&キャスト: [監督]和泉聖治
[脚本]戸田山雅司
[音楽]池頼広
[出演]水谷豊 寺脇康文 鈴木砂羽 高樹沙耶 岸部一徳 木村佳乃 西村雅彦 原田龍二 松下由樹 津川雅彦 西田敏行


謎の連続殺人事件を捜査する、警視庁特命係の右京と薫。残された不可解な暗号を追いかけていった彼らは、犯人が都心で開催される“東京ビックシティマラソン”を次の犯行現場に考えていることに気付く。

人気番組の映画化として、同じ刑事ドラマの「踊る大捜査線」と比較されがちな「相棒」。「家政婦は見た!」シリーズでおなじみの土曜ワイド劇場の枠から誕生したこのドラマは、社会現象にまでなった“踊る”と比べると確かに地味だが、一度見るとジワジワとハマる中毒性がある。

「相棒」のおもしろさは、緻密な脚本にある。漫画原作のテレビドラマがあふれる中で、サスペンスやミステリーが入り混じり、軽くアクションも加えたエンターテイメント性と、人間味を感じさせる結末など、骨太なオリジナル脚本が新鮮。連続ドラマはもちろん、特にスペシャル版は、テレビドラマの内容にしておくのはもったいないくらいの出来栄えで、制作費をたっぷりかけた下手な邦画より興奮したのを覚えている。そして、ついに映画化。テレビでこれだけのことができたのだから、映画にしたらどうなるのか、期待が高まるのは当然だ。


警視庁の窓際部署として存在する「特命係」。表舞台から隔離された頭脳明晰な警部の杉下右京と巡査部長の亀山薫が、命を預けあった素晴らしいコンビネーションで事件を解決に導いていく。今回も、杉下は事件現場に残された謎の記号の意味を誰よりも早く解読。チェスの手を示す棋譜と悟った杉下は、Eメールを使って犯人にチェスの対局を挑み、連続殺人犯の最後の標的を知ることに。それは、東京都心部を走る市民マラソンに参加する3万人のランナーと15万人の観客。そして、杉下と亀山は不自然なチェスの投了図が意味する事件の謎と真実を突き止めていく。

チェスの知識がないゆえ、警視庁の捜査員たちも手が出せない、杉下と犯人との緊迫した対局が派手なアクションよりも静かにスリリング。テレビドラマでは沈着冷静に事件の謎を淡々と解いてきた杉下だったが、あまりに身勝手で凶悪な犯罪に震えて怒り、焦って落ち着かない様子が印象深い。杉下のそんな姿が見られるだけでも、ファンにとってはお宝映像的な価値はある。

また、実際に日本で騒がれている問題を事件として取り上げている点が、ノンフィクションでありながら見る側に問題を提起し、物語を身近にさせているのも引き付けられる魅力のひとつ。本作でも見覚えのある事件が、連続殺人事件の裏側に潜んでいる。この2重構造が憎い! ひとつの事件にいくつもの伏線があり、ホッとしたのも束の間、また新たな事件が浮かび上がり、解決まで一筋縄ではいかない。そして、最後に泣かせるのが、逮捕後の犯人と右京との会話。どんな理由であれ、許されない罪を犯した犯人が、右京との時に知的に、時に人情を含ませた会話で気持ちが救われていく様子が感動的。映画版でも外せない一幕だ。


最近はTVドラマの映画化が増えたが、その映画版には幾つかのパターンがある。元が連続ドラマならば物語の前日談や後日談を描いたもの、舞台を外国などのTVよりもスケールアップさせた場所に移したもの、キャストや監督を映画用に変えたものなどだが、今回の場合はそのどれにも当てはまらない。冷静な頭脳派の右京と、猪突猛進型の肉体派である薫のキャラクターをTVと同様に活かし、さらには“特命係”というどんな事件でも扱う彼らのポジションも効果的に使って、言わばTVドラマの世界観をゴージャスに盛り付けた映画である。それでいてチャチな雰囲気にならないのは、これが最初にTVのシリーズを立ち上げる時、脚本の準備だけで1年の歳月を費やし、監督には映画畑の和泉聖治を持ってきて、元々映画のように手間隙をかけて基本的な世界観を作った作品だからだろう。それだけに今回の劇場版でも何ら違和感なく推理、サスペンス、社会問題までも含めた作品の世界に入っていける。



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